諌早湾防災対策検討委員会・中間報告書

                 
 ***諌早湾防災対策検討委員会
     中間報告書
   昭和58年12月
  諌早湾防災対策検討委員会***

 目次
 1.はじめに-----------------------------------------1
  1−1 委員会設置の経緯---------------------------1
  1−2 国土保全の視点から見た諌早湾の現状と
     予測される災害-------------------------------2
  1ー3 国土保全上必要とされる防災対策-------------3
  1ー4 検討の内容---------------------------------4

 2.検討に当たって前提とした諸元---------------------5
  2ー1 対象降雨と洪水量---------------------------5
  2ー2 外潮位-------------------------------------7
  2ー3 調整池の管理水位等-------------------------8
  2ー4 干潟化の現状------------------------------10

 3.築堤についての検討------------------------------15(掲載省略)
  3ー1 諌早湾の基礎地盤と軟弱粘土層の分布--------15
  3ー2 築堤の技術的可能性------------------------19
   3ー2ー1 計算諸元----------------------------19
   3ー2ー2 基礎処理工法の検討------------------21
   3ー2ー3 安定計算----------------------------22
   3ー2ー4 検討の結果--------------------------29

 4.水文水理からみた締切規模------------------------31
   4ー1 解析の基本となる案----------------------31
   4ー2 縮小案の考え方とその検討結果------------33
    4ー2ー1 4、600ha案について------------33
    4ー2ー2 3、000ha台の案について--------36
      4ー2ー2ー1 3、300ha案について----38
      4ー2ー2ー2 3、900ha案について----45

 5.むすび----------------------------------------51
  5ー1 縮小案の防災効果--------------------------51
  5ー2 今後の技術的検討事項----------------------53

 付 「諌早湾防災対策検討委員会設置要領」------------55

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 1.はじめに

1ー1 委員会設置の経緯
 長崎南部総合開発計画は、昭和52年度以降6カ年間に亘
り事業費予算が計上され、事業の推進が図られてきたが、従
来の計画規模では、諌早湾外漁業者の合意を得ることは困難
と見込まれ、昭和57年末に打ち切られた。
 しかし、諌早湾地域では、急速な干潟の発達に加え、諌早
水害(昭和32年7月25日)や長崎水害(昭和57年7月
23日)等再三の災害発生状況からみて、防災の観点を
重視した事業を緊急に実施する必要があるため、この地
域の総合開発として理想と目された従前の計画に代わって、
防災面を重視した諌早湾干拓事業計画が再検討されることと
なった。
 この計画では、締切面積は、関係漁業者との合意の可能性
を重視して、極力圧縮することとし、具体的な締切堤防(潮
受堤防)の位置等については、軟弱地盤上の築堤の可能性、
水文水理特性からみた調整池の必要規模及び防災上の効果等
を検討し決定されることとなった。
 この計画立案に際し、基本的に解決すべき技術的諸問題を
検討するため、農林水産省の依頼により、学識経験者で構成す
る諌早湾防災対策検討委員会が設置され、これまで数次にわ
たって会合が持たれ審議検討が進められた。
 この報告書はこれまでの委員会の審議経過に基づき中間報
告書として取りまとめたものである。

              ー1ー
-----------------------------------------------

1ー2 国土保全の視点から見た諌早湾の現状と予測される災
害

 諌早湾々奧部の低平地は、過去数百年に亘って造成された干
拓地で、大潮時には海水面よりも低い、いわゆる0m地帯で
ある。その全面の海域では広大な干潟が発達し、その干潟は、
河川の河口域や底平地の排水桶門前面のミオ筋を埋没させ、河
川洪水の円滑な流下の妨げとなると共に底平地の常時排水に
も支障をきたしている。また、諌早湾に流入する河川はすべ
て流路が短く、洪水は短時間に集中して流下する。更に、こ
れらの地形的要素に加え、この地域は梅雨前線が停滞しやす
くまた、湿舌が侵入しやすい地帯であると共に、台風の常襲
地帯でもある。
 このような地形上、気象上の自然的特異性の下で、この地
域では、昭和2年の高潮災害、昭和32年の諌早水害、昭和
57年の長崎水害等、これまでにも湾奧部を中心に度々、高
潮や洪水の被害を被っている。なかでも昭和32年に発生し
た諌早水害は死者680名、家屋の全壊2、250戸、田畑
の流出1、390haという極めて大きなもので、その記憶も地
域住民には生々しいものがある。
 また、低平地の一部では農業用水を地下水に依存している
ため、その取水による地盤沈下をきたしている。
 一方、国土保全施設である海岸堤防や河川堤防は天端標高
が低く、高潮、洪水に対して十分安全なものとはいえない。
 このようなことから、この諌早湾奧の低平地及び沿岸部に
おいては高潮、洪水、常時排水不良、潮風害、地盤沈下等を

         ー2ー

-----------------------------------------------

 防止するための諸対策を緊急に講じる必要がある。

1ー3 国土保全上必要とされる防災対策
 このような防災的見地から各々の対策を個別に講じようとすれ
ば、(1)高潮対策については海岸堤防の嵩上げ、(2)洪水対策に
ついては河川堤防の嵩上げ・補強、通水能力を確保するため
の河口の継続的なしゅんせつ及び洪水調節用ダムの築造、(3)
後背地の常時排水対策については排水ポンプの増設及び排水
桶門前面のミオ筋の確保、(4)地盤沈下対策については水源転換
のための新たな水源の確保(利水ダム等の築造)など多種多様な
対策が必要となる。
 しかしながら、本地域の場合、河川上流において洪水量を
十分貯留できるような防災ダムを築造することが、地形的、
地質的制約から困難とみられている。また、高潮を防ぐため
に嵩上げを必要とする海岸堤防は延45kmにも及んでいる。
更に、高潮と洪水が重なった場合は、河川堤防の嵩上げや河口
のしゅんせつを実施しても、河口水位が上昇し、堤防決壊等
の危険性は依然として残ることになる。
 このようなことから、各々の対策を個別に行うことは、諌
早湾地域の緊急かつ効果的な防災対策とはなり得ない。
 そこで諌早湾の形状・海底地形及び後背地の状況からみて、
防災対策を考えると、湾の一定部分を潮受堤防で締切って外
海と遮断し、その内部に洪水調節を図るための調整池を設け
る、いわゆる複式干拓方式によることが総合的な防災対策を
講じる上で最も有効な手法となる。

              ー3ー

-----------------------------------------------

すなわち、複式干拓を実施すれば、その潮受堤防によって潮
汐を遮断することにより、河口となる調整池の水位を外潮位
に関係なく低く保つことが可能であると共に、ミオ筋が確保
され、常時においては背後低平地の排水改良はもちろんのこ
と、洪水時においても、あるいは洪水と高潮が重なった場合
でも河川洪水の流下が円滑に行われ、その被害の危険性は大
幅に軽減される。また、強固な堤防は、高潮からの被害を防
止すると共に、農地を海岸から大きく隔てるため、個別対策
では防止することが困難な潮風害の発生も大幅に軽減される。
更に、現在旧干拓地においては、農業用水を地下水に頼って
いるため地盤沈下が生じているが、水源を調整池内の貯留水
に転換することによりその問題は解決する等、防災上の多面
的な効果が期待される。

1ー4 検討の内容
 諌早湾防災対策検討委員会では前述の自然条件及び社会的諸
情勢にかんがみ、複式干拓を前提として、締切規模を可能な限
り縮小する方向で計画案を模索、検討することとし、当面の検
討内容を縮小に当たって基本的な問題になる軟弱地盤上での
築堤の可能性、及び、調整池規模についての水文水理的検討
の2つに限定して審議を進めた。

         ー4ー

-----------------------------------------------

 2.検討に当たって前提とした諸元

2ー1 対象降雨と洪水量
 九州西北部の長崎県地域は、梅雨期に東支那海で醸成され
た湿潤な空気と日本海に張り出す比較的寒冷な気団との接触
域に当たり、南北気流の収集帯が形成されやすく、したがっ
て、下層温暖、上層寒冷といった不安定な大気状態が出現し
て集中豪雨が発生しやすい。

 また、台風に伴う大雨も雲仙岳、多良岳及び離島に多い。
 このように、長崎県地域は、気象学的に大雨発生の特徴が似
ており、長崎県下に発生した集中豪雨は、諌早湾流域(約
300km^2)にも発生する可能性は十分あると考えられる。そこ
で、長崎県全域を対象として年最大降雨級の降雨データを収
集し、DA解析(面積雨量の解析)を行うことにした。

 また、潮汐の関係から、調整池から排水できない時間は、約
6時間と見込まれるので、DA解析に当たっては、6時間雨
量を用いて行うこととした。
 各降雨のDA特性は、次に示す修正Horton式により求め
た。

        ー5ー

-----------------------------------------------

 P/PO=exp{ーα(AーA0)^β}

 P0 :地点最大雨量(mm/6hr)
 P :面積雨量(mm/6hr)
 A0 :P0の支配面積(km^2)
 A :対象面積(km^2)
 α、β:係数(最小自乗法により決定する)

 この式により、諌早湾流域面積に相当する年最大の面積雨
量を求め、これを岩井法により確立計算を行ったところ表ー1
のとおりとなった。
表ー1 面積雨量の確率
再現期間(年)21020501002001000
6時間雨量
(mm/6hr)
176295339395437479578
 DA解析結果によると、防災計画として用いられる1/50
確率程度の面積雨量が395mmであること、諌早水害時の諌早
湾流域の降雨実績(6時間面積平均雨量)が約380mmである
こと、また建設省の本明川河川改修計画においても諌早水害
時の降雨を対象としていることなどを勘案し、対象降雨とし
てはこの計画でも諌早水害時の降雨を採用することとした。
 また、洪水量は諌早水害時の降雨実績をもとに、下記に示
す貯留関数法により流出解析を行った。

         ー6ー

-----------------------------------------------

 流域流出量の基本式
 dSl/dt=frーql 
 Sl=Kql^P          
 ql(t)=q(t+Tl)
 Q=(6/3.6)Aq+QB
(10分刻みで計算し
 た場合の式を示す)
        Sl:みかけの貯留量(mm)
        r:流域平均雨量(mm/10min)
        ql:Tlを考慮した単位流出高(mm/10min)
        q:単位流出高(mm/10min)
        Q:流出量(mm^3/S)
        QB:基底流量(mm^3/S)
        A:流域面積(km^2)
        f:流出率
        K,P:流域貯留係数
        Tl:流域の遅滞時間


 河道流出量の基本式
 dSl/dt=IーQl
 Sl=KQl^PーTlQl 
 Q(t)=Q(t+Tl)
        Sl:河道のみかけの貯留量(m^3)
        I:流入量(m^3/s)
        Ql:Tlを考慮した流出量(m^3/s)
        Q:流出量(m^3/s)
        Tl:河道の遅滞時間
        K、P:河道の貯留係数

 2ー2 外潮位
 潮受堤防の検討に用いる計画外潮位は、一般的に
  計画外潮位=大潮平均満潮位+偏差(異常時)
で求められる。
 偏差は、過去における高潮発生の原因が、オランダなどの

        ー7ー

-----------------------------------------------

ように、季節風によるものではなく、ほとんど台風に起因して
いることから、台風の記録を調べ、その進路や規模の頻度、
風の諸性質等から解析して求めるのが通例である。また、海
岸堤防等の重要構造物の設計に当たっては、全国的に伊勢湾
台風級の台風を想定して偏差を見込んでいる。
 したがって、本検討に用いる偏差においても伊勢湾台風級
のモデル台風を設定し、諌早湾に対し、最も危険なコースを
通過した場合に生ずる高潮((ア)気圧低下による海面上昇、(イ)
風による吹寄せ高)を動力学的に解析して、2.34mを得た。
 また、諌早湾における大潮平均満潮位はEL(+)2.55m
であるので、計画外潮位は、これに偏差(2.34m)を加え
てEL(+)4.9mとなり、検討に当たってこれを採用すること
とした。
 調整池の規模を検討する場合の外潮位(計画高潮位)は、
本検討が防災の視点を重視した複式干拓との認識にたって、
基本的な外潮位条件として、大潮の天文潮に前述のの伊勢湾台
風級の偏差を加算して求めた外潮位曲線を用いることとした。
 なお、締切規模を縮小した案については、上述の外潮位曲
線のほかに、既往最高潮位(EL(+)3.5m)や平均年最高潮
位(EL(+)3.0m)を加味した外潮位曲線についても水文水
理解析を行うこととした。

2ー3 調整池の管理水位等
 調整池の常時管理水位の決定に当たっては、背後低平地の
常時排水が良好であることと、及び、調整池外から外海への排水が

         ー8ー

-----------------------------------------------

強制排水に頼らず、干潮時には自然排水が可能な水位とする
ことが基本的要件となる。
 したがって、常時管理水位は、小潮平均干潮位と同程度の
EL(ー)1.0mとする。
 調整池の洪水時上限水位は、既設の海岸堤防や河川堤防の
標高及び一級河川である本明川の河川管理上からの河口制限
水位(EL(+)3.50m)等を勘案して定めなければならな
い。
 具体的には、
(ア) 既設の海岸及び河川堤防の標高から、ほとんどこれを嵩
上げする必要がない水位として、EL(+)2.5m程度とする
場合
(イ) また、調整池の単位面積当たりの貯留量を増加させるた
め、調整池内の一部の既設堤防の嵩上げを容認した場合の
水位として、EL(+)3.0m程度とする場合
(ウ) 更に、本明川河口制限水位(EL(+)3.5m)が確保可能
な水位まで、許容する場合
等が考えられる。
 以上のように、種々の考え方があるが、調整池の上限水位の
採り方は調整池規模に係わることでもあるので、後述する締切り
位置に応じて設定することとした。

           ー9ー

-----------------------------------------------

  図ー1 水位関係図
 (提供者注:東西方向断面図で既設堤防・内部堤防・潮受堤防で区
  切られた地域の水位や潮位を表示した図。以下に概要)

 背後地/干陸地/調整池/外海
本明川河口/*/上限水位       /計画外潮位EL(+)4.9m
制限水位 /*/常時管理水位EL(-)1.0m/既往最高潮位EL(+)3.5m
EL(+)3.5m /*/*          /平均年最高潮位EL(+)3.0m
*     /*/*          /小潮平均干潮位EL(-)1.0m               

2ー4 干潟化の現況
 有明海特有の干満差の大きい潮汐現象は、有明海湾奧部に
浮泥を移送し、堆積させる作用を持っている。このため、有
明海湾奧部は干潟の発達が顕著で、毎年10〜20m程度、
干潟線が前進している。
 また、諌早湾においても同様に湾奧部を中心に干潟化が進
み、昭和31年から昭和46年までの15年間に20〜80cm
の堆積が測定されている、(図ー2参照)
 このように、年々干潟化が進んでいるが、この地域で防災を
重視した複式干拓を計画する場合、干潟の堆積状況、特に海
底地地形は、堤防を築造する上で重要な要素となる。
 諌早湾内では、昭和36年以降海底地形の調査が行われて
いなかったため、今回(昭和58年7月)音響測深機を用い
て測量を行った。その結果は図3ーで示すとおりである。一
般に干潟は平均年最大干潮位(諌早湾ではEL(ー)2.90m)
以上とされているが、これに基づき干潟線を想定すれば図ー
3に点線で示す線となる。すなわち、干潟化は、この線まで
進んでいるといえる。

         ー10ー

-----------------------------------------------

 図2 干潟の経年変動量(提供者注:掲載できないので、読みとります)
  (1)諌早干拓堤防

 横軸:距離、範囲0.00m〜600.0m、目盛50m幅
 縦軸:標高、範囲-1.80m〜+1.00m、目盛0.20m幅

 各調査年のグラフは右下がりのほぼ直線です。以下は読みとり値です。
 昭和31年   調査:始点(0.00,-0.90)終点(600,-1.70)
 昭和45年 9月調査:始点(0.00,-0.25)終点(600,-1.10)
 昭和45年11月調査:始点(0.00,-0.25)終点(600,-1.05)
 昭和46年 1月調査:(読みとれません)
 昭和46年 5月調査:(読みとれません)
 昭和46年 9月調査:(読みとれません)

  (2)小野堤防

 横軸:距離、範囲0.0m〜1000.0m、目盛50m幅
 縦軸:標高、範囲-0.40m〜+2.40m、目盛0.20m幅

  各調査年のグラフは右下がりのほぼ直線です。以下は読みとり値です。
 昭和31年   調査:始点(0.0,+1.55)終点(1000.0,+0.20)
 昭和45年 9月調査:始点(0.0,+2.15)終点(1000.0,+0.50)
 昭和45年11月調査:(読みとれません)
 昭和46年 1月調査:(読みとれません)
 昭和46年 5月調査:(読みとれません)
 昭和46年 9月調査:(読みとれません)

                      ーP11ー

              (p12白紙)<---提供者注:手書き上書き
           
-----------------------------------------------

  図ー3 干潟線位置図諌早湾
    1:50,000                
   (注)昭和58年7月深浅測量調査による

(提供者説明:
●諌早湾は横長のほぼ長方形の形をしており、西の縦線の上部
に本明川河口があります。また東は湾入り口で有明海に開いて
います。図では水深を1m単位の等高線がほぼ南北に走ってい
ます。勾配は干潟線付近がもっともゆるやかで、東西に向かっ
て少しづつ等高線の幅が狭くなります。ただし東の湾入り口に
近くなると急激に深くなります。本図上の等高線は西から+1
mで始まり、東はー17mで終わる。
●湾岸の町
 △北横線(左から右へ)
  諌早市、高来町、小長井町

 △西縦線(上から下に)
  本明川河口
  諌早市川内町新地
  諌早市小野島新地
  諌早市赤(?)崎新地
  森山町

 △南横線(左から右へ)
  愛野町、吾妻町、瑞穂町
 
●西縦線(海岸線)は諌早市部分はまっすぐだが、森山町が海
側に約2km出っ張っている。海岸堤防の内側は碁盤の目の形
状なので干拓地と思われる。
●南横線のはじまり(西)は大きな干拓地となっており、大半
が吾妻町で一部が愛野町、ここも横線から海側に最大で1.5
kmほど突き出ている。
●+1m等高線の走行
 本明川河口から始まって、海岸堤防から約1km離れて、諌
早市干拓地に沿ってまっすぐに南下し、森山町にぶつかる手前
約1kmで西にターンして海岸線のぶつかって消滅する。
●0m等高線の走行
 本明川河口から始まって、+1m等高線の約1km東をまっ
すぐに南下し南下し森山町の北側海岸線に衝突して消滅する。
●ー1m等高線の走行
 本明川河口から約2km東をまっすぐに南下し、森山町東川
海岸線のそばを通る。
●干潟線(EL-2.9m)
 諌早市干拓地からは約5km、森山町干拓地からは約2.5
km東を南北に走っています。これ以西を干潟として地図上で
模様を付けて区別しています。)

         ー13〜14ー

-----------------------------------------------
(p15からp30までは省略します。ご希望があれば考えます)
-----------------------------------------------

4. 水文水理からみた締切規模

 4ー1 解析の基本となる案
 複式干拓方式により防災対策を講じようとする場合、環境
保全、河口閉塞防止等の観点から、干潟化している浅海域を
内部堤防により囲んで干陸し、その全面に十分な洪水調整能
力を備えた調整池を設けることが、一般的に考えられる。こ
のことから干陸を行う範囲は、現在干陸化している部分(平
均年最大干潮位EL(-)2.9mよりも標高の高い部分)とし、
干潟線(EL(-)2.9m)を平均的に直線と見なし得るところ
に堤防を設けると干陸面積は3、200haとなる。
 一方、調整池の面積は調整池の最高水位をどこまで許容す
るかによって大きく左右される。ここでは、地域住民が日常
経験し、潮受堤防の内側に入る既設海岸堤防等の嵩上げの必
要がない大潮平均満潮位(EL(+)2.5m)以下に、その水位
を抑えることとして調整池面積を求めた。
 この調整池面積は、DA解析の結果に基づいて概算した後、
その近傍の面積を想定して、2ー1に示す流出解析及び次に
述べる不定流解析を行い、所定の条件が満足されることを確
かめた上で定める方法を採った。
 すなわち、不定流解析手法は洪水が流下する承水路に一定間隔
で計算断面を設定し、水の流れの基本式である下記の2式に
ついて数値解析を行うことによって、時々刻々の調整池水位、
承水路各断面の水位及び流量等を計算する方法である。

        ー31ー

-----------------------------------------------

 運動方程式 
  1/g・du/dt+d/dx(u^2/2g)+u/gA・qーi+dh/dx+n^2u|u|/R^(4/3)=0

 連続の式
 dA/dt+dQ/dx=q

 ここに、g:重力の加速度(m/s^2)
     u:流速(m/s)
     t:時間(s)
     A:流積(m^2)
     i:水路底勾配
     q:横からの流入量(m^2/s)
     h:水深(m)
     x:流れ方向の距離(m)
     n:粗度係数
     R:径深(m)

 調整池面積は、この解析結果を基に本明川河口制限水位及
び調整池の許容最高水位等を勘案して求めると2、800haとな
った。したがって、締切面積は、干陸面積3、200haに調整池
面積2、800haを加え6、000haとなる。
 この案は、現状の背後地での積極的な防災対策としてはも
とより、将来の土地利用の変化に対しても、河川改修等の防
災対策を講じ得る可能性を残していることから、複式干拓に
よる防災対策として、解析の基本となる案ということができる。

         ー32ー

-----------------------------------------------

 4ー2 縮小案の考え方とその検討結果
  4ー2ー1 4、600ha案について
(1)考え方
 4ー1で求めた基本となる案(6、000ha)を出発点と
して、本明川の計画洪水位、既存の河川・海岸堤防の高
さ等からみた調整池の安全性、更には管理水位、干潟
の状況等からみた調整池の環境保全等を考慮して、比較
的技術上の問題が少ない範囲で規模を縮小することを検
討した。
 まず、調整池については、一部調整池内の既設堤防の
嵩上げを行うことにより、調整池最高水位をEL(+)3.0m
まで許容することにすると、調整池必要面積は2、200haと
なる。
 また、干陸地については、調整池の環境保全の観点か
ら浅い水深のところの挺水植物の繁茂を極力抑制する必
要があるため、最低水深1.2mを確保するよう、内部堤防を
標高EL(ー)2.2m(およそ大潮平均干潮位)の位置まで後退
させることにすると、干陸面積は2、400haとなる。
 したがって、締切面積は、調整池面積2、200haに干
陸面積2、400haを加え、4、600haとなる案が得られる。
(2)本明川河口水位及び調整池の水位
 背後地の土地利用や治水諸施設が現状と変わらないと
した場合について、流出解析、不定流解析を行った結果
は、表ー10のようになる。調整池最高水位はおおむ
ねEL(+)3.0m程度であり、本明川河口最高水位は制

         ー33ー
 
-----------------------------------------------

限水位(EL(+)3.5m)より50cm程度余裕のある結果となった。
表ー10 本明川河口及び調整池最高水位
外潮位\内水位本明川河口
最高水位
調整池
最高水位
備考
EL(+)4.90mEL(+)2.92mEL(+)2.83外潮位条件
大潮+偏差
(3)背後地の湛水状況
 背後地の排水施設が現状と変わらないと仮定した場合
の湛水状況は、表ー11のとおりであり、計画後の湛水
状況をみると諌早水害時のような異常洪水に対してもか
なり改善されることが分かる。
表ー11 背後地の湛水状況
区分\事項外潮位湛水面積最大
湛水位
最大
湛水深
最大
湛水時間
家屋備考
床下浸水床上浸水
現況EL(+)4.9m3,260haEL(+)4.89m5.39m......hr1,360戸3,020戸***
計画EL(+)4.9m2,290haEL(+)2.83m2.53m28hr180戸90戸***
(注)1.現況の湛水状況は、外潮位EL(+)4.9mが生起すれば既設の海岸及び河川
堤防が決壊し、背後低平地は全面的に湛水するものとして算出した。
   2.計画後の湛水状況は、本明川河口の最高水位が制限水位(EL(+)3.5m)
を越えないため、既設堤防の決壊は起こらないものとして算出した。

              ー34ー

-----------------------------------------------

(4)背後地での排水改良の可能性
 計画後における背後地の湛水状況は、前項に述べたと
おりであるが、それによると床上浸水戸数は90戸に及
んでいる。そこで、いま仮にこの床上浸水を床下浸水ま
で改良するため、その湛水量(約10、000千m^3)をポンプ
等で全量調整池に排除するとすれば、本明川河口最高水
位はEL(+)3.57mとなり制限水位をわずかに上回る程度に収
まる。したがってその具体的な対応策については今後の
詳細な検討が必要であるが、将来における背後地での排
水改良の可能性は十分あると判断される。
(5)調整池の堆砂
 諌早湾の背後流域からの流出土砂は、掃流砂と浮流砂
に区分することができる。そのうち調整池の堆砂は、大
部分が浮流砂と考えられるので、本明川をモデルとして
年平均浮流砂量を試算した結果流域1km^2当たり220m^3の値
を得た。そこで、この浮流土砂が調整池に流入堆砂した
場合の調整池の埋没年数を算出すると表ー12のとおり
となる。
 なお、4、600ha案の背後流域面積は220km^2であるこ
とから、年流出土砂量は48千m^3となる。
表ー12 堆砂による埋没年数
堆砂標高堆砂標高
以下の容量
年平均
流出土砂量
埋没年数備考
EL(-)1.0m37,000千m^348千m^3770年*
EL(-)2.2m18,000千m^348千m^3380年*
           ー35ー

-------------------------------------------------

(6)外縁地域における国土保全対策
 潮受堤防による締切内の背後低平地での防災対策と
しては潮受堤防及び調整池等の設置により、一応その
対策が講じられることになるが、その外縁地域におい
ても海岸堤防及び河川等の改修整備を今後、締切内に
準じた国土保全対策として実施する必要がある。
 そのため、潮受堤防の外側になる海岸堤防及び河川で、
改修整備が必要と見込まれる延長は、表ー13のとお
りである。

表ー13 堤防等の改修延長
区分堆砂標高(1)総延長(2)要改修延長(2)/(1)備考
海岸堤防44.5km11.7km26.3%*
河川22.3km2.9km13.0%*
(注)1.「総延長」の欄は、南総計画の締切内にある延長である。
   2.「要改修延長」の欄は、締切りの外側となるため別途事業により改修
    整備が必要となる海岸堤防及び河川の延長である。
4ー2ー2 3、000ha台の案について
 これまでの湾外漁業者等の意向等からみて、4、600ha案
でも事業の実施にかなりの困難が予想されること、湾外
漁業者が既に打ち出している合意可能な規模が3、000ha
であることを考慮して、これを目標に更に規模を縮小す
ることの可能性を、施工面及び水文水理特性から検討す
ることにした。

         ー36ー

-----------------------------------------------

 さて、規模を更に縮小することになると潮受堤防・内部
堤防を湾奧に後退させざるを得ないが、これに伴って調整
池の水深は浅くなる。この場合、調整池最浅部の水深をど
の程度に抑えるかが問題となるが、これについては次の諸
点を考慮した。
1)挺水植物の繁茂をできるだけ防止できる水深を確保す
 ること。
2)諌早湾のような遠浅海域では、河口閉塞を防ぐ(ミオ
 筋の確保)ため、導流堤(内部堤防)を導流効果が発揮
 できる水深(1.0m以上)のところまで延ばす必要があ
 ること。
3)調整池の水深が浅いと風浪により常時底泥の塩分がかく
 はん混合されるため、塩害を招く恐れがあること。
 その結果、浅水部水深を限界まで圧縮して1.0mとするこ
ととした。したがって内部堤防は、地盤標高EL(ー)2.0m
の位置となり、干陸面積の最小規模は2、100haとなった。
 次に調整池については、以下の2つの考え方に基づいて
縮小案を考えることにした。
1)潮受堤防の施工面からの最小限の案を検討する。潮受堤
 防の築造に際しては、前述したようにサンドコンパクシ
 ョンパイル及びサンドドレーンによる基礎処理が必要で
 ある。この場合パイルの打設は海上作業となり、干満差
 の大きな諌早湾における潮流、波浪、さらには作業船の喫
 水等の関係から、その作業を安全に、効率良く、かつ高
 精度で行うためには、最小限3.0mの水深が必要となる。

             ー37ー
-----------------------------------------------

このことから、地盤標高EL(ー)3.0mの位置が、施工面
から締切規模縮小の限界と考えられる。この場合締切
面積は3、300haとなる。したがって、干陸面積が2、100ha
であることから調整池面積は1、200haとなり、この締切
面積3、300haが施工上からみた最小の案と考えられる。
2)調整池及び河川の水文水理の面から最小限の案を検討
する。4、600ha案では、本明川河口最高水位はEL(+)2.92m
となったが、これを河口制限水位EL(+)3.5mまで許容
することとする。この条件を基に調整池の規模をDA解
析結果から算定すると1、800haとなり、これに干陸面積
の最小規模2、100haを加えると締切面積は3、900haとなる。
 よって、以下では表ー14の規模について、更に詳細
に検討することとした。
表ー14 縮小案の面積
締切規模干陸面積調整池面積
3、300ha案2、100ha1、200ha
3、900ha案2、100ha1、800ha
4ー2ー2ー1 3、300ha案について
(1)本明川河口水位及び調整池水位
 背後地の土地利用や治水諸施設は現状のまま変わらな
いものとして、流出解析、不定流解析を行ったところ次
のような結果が得られた。
 まず、4600ha案の場合と同様、外潮位条件EL(+)4.9m

         ー38ー
-----------------------------------------------

の場合について検討すると、本明川河口最高水位はEL
(+)4.50mとなり、制限水位EL(+)3.5mを大幅に上回
り、また調整池水位もEL(+)4.40mと異常な高水位
となる。したがって各所で河川堤防、海岸堤防の決壊が予想される。
 次に、外潮位が諌早湾における既往最高潮位EL(+)3.5m
及び平均年最高潮位EL(+)3.0mの場合について検討
すると共に、調整池排水門の拡幅効果についても検討を
行ってみた。その結果表ー15に示すように、いずれの
条件においても本明川河口最高水位は制限水位を越え、
防災上好ましくない状況が予想されることとなる。
表ー15 本明川河口及び調整池の最高水位
外潮位\区分排水門幅本明川河口
最高水位
調整池
最高水位
備考
EL(+)4.9m200mEL(+)4.5mEL(+)4.40外潮位条件
大潮+偏差
EL(+)3.5m200mEL(+)4.08mEL(+)3.87既往最高
EL(+)3.0m200mEL(+)3.81mEL(+)3.49平均年最高
EL(+)4.9m400mEL(+)4.43mEL(+)4.31外潮位条件
大潮+偏差
EL(+)3.5m400mEL(+)4.01mEL(+)3.77既往最高
EL(+)3.0m400mEL(+)3.72mEL(+)3.38平均年最高

 また、大潮の場合に調整池水位をあらかじめ常時管理
水位EL(ー)1.0mよりも更に下げておくことができれば、
洪水調節容量が増加し、結果として本明川河口最高水位
の低下が期待できるのではないかと考え、その効果を排水

            ー39ー

-----------------------------------------------

門幅200m及び400mの場合について検討した。
 その結果、排水門幅200mの場合には排水門の能力
に制約され、常時管理水位の制限の有無の如何にかかわらず、
その効果は認められなかった。また排水門幅400m
の場合についても、表ー16のとおり、EL(ー)1.0m以
下の調整池容量が小さいことや排水門の閉鎖時間が長く
なり、要貯留量が増加することなどからその効果は意外
に小さいことが分かった。現実には洪水予測の困難性等
を勘案すれば、結局EL(ー)1.0mの常時管理水位を設定
するのが妥当と判断される。

表ー16 常時管理水位の制限を設けない場合の水位変化
常時
管理水位
排水門幅調整池水位本明川河口
最高水位
備考
最低最高
EL(-)1.00m200mEL(-)0.87mEL(+)4.40mEL(+)4.50m外潮位条件
大潮+偏差
制限を設け
ない場合
200mEL(-)1.03mEL(+)4.37mEL(+)4.47m
400mEL(-)1.79mEL(+)4.24mEL(+)4.36m

(2)背後地の湛水状況
 本案では、本明川河口水位がいずれの外潮位条件を想
定しても、制限水位を超えるため、背後地の河川及び海
岸堤防の低いところから順に決壊し、背後地に流入して湛水
する。このときの背後地の湛水状況は、表ー17のよう
に想定される。

              ー40ー

-----------------------------------------------
表ー17 背後地の湛水状況
区分\事項外潮位湛水面積最大
湛水位
最大
湛水深
最大
湛水時間
家屋備考
床下浸水床上浸水
現況EL(+)4.9m3,200haEL(+)4.89m5.39m......hr1,350戸3,000戸***
EL(+)3.5m2,810haEL(+)3.50m4.00m......hr540戸840戸
EL(+)3.0m2,240haEL(+)2.53m2.33m40hr190戸50戸
計画EL(+)4.9m2,650haEL(+)3.14m2.84m......hr440戸330戸***
EL(+)3.5m2,580haEL(+)2.88m2.58m......hr390戸230戸
EL(+)3.0m2,310haEL(+)3.42m3.12m29hr170戸140戸

(3)干陸地を遊水池として利用することについて
 上記の解析結果からみて、本明川河口制限水位を制限水位
(EL(+)3.5m)以下に抑えるためには、洪水の一部を干陸
地へ導水して、干陸地を遊水池として利用せざるを得な
い。
 その導水方法としては、堤防の一部を低くして越流さ
せる越流堤方式及び堤防に水門を設置して導水する水門
方式が考えられる。しかしながら、いずれの場合も次の
ような困難な問題がある。
○1 越流堤による場合の問題点
 1)越流堤を軟弱地盤上に設置するためには、特別な
基礎処理が必要となる。また、たとえ特別な基礎処
理を行ったとしても、長期間にわたって徐々に沈下
することが予想されるので、越流堤天端標高を一定
に保つ何らかの維持方策が必要となるが、技術上決

                ー41ー

-----------------------------------------------

め手となる方策はない。
2)越流水深の関係から越流堤天端標高は、EL(+)2.5m
程度となろうが、この標高では諌早水害時の7割程
度の洪水時でも干陸地に河川洪水が流入することに
なり、その頻度が高くなりすぎる。 
3)越流堤は延長薬4Kmのコンクリート構造とする
必要があるが、軟弱地盤上に築造することから、全
線にわたって特別な地盤改良が必要となり、工事費
の大幅な増大を招くことになる。

○2 水門による場合の問題点
1)水門敷高をEL(_)2.0m、導水開始水位をEL(+)
2.5mとした場合、水門幅が約140m必要となり、
軟弱地盤上にこのような大規模な水門を設けること
は、高度の特別な地盤改良が必要となる。
2)導水時の最大流量は約2、400m^3/sec、流速4m^3/sec
にもなることから、干陸地内の洗掘を防止するため、
大規模な遊水池、導流工、護床工、堤防法面保護工、
減勢工等を築造しなければならないが、軟弱地盤上
にこれらの構造物を造ることは、技術的に難しい問
題がある。

○3 共通の問題点
1)干陸地内に洪水を導水することは、我国では前例
がないので、いずれの方法についても大規模な水理
模型実験等を行い、堤防及び干陸地内の安全を十分
確認することが必要である。          

         ー42ー

-----------------------------------------------

2)干陸地内への導水を管理するためには、河川水
位(上流部を含む)、調整池水位、外潮位及び流域
内の降雨の状況を素早く把握し、そのデータを直ち
に解析し、水門等の管理施設を自動運転できるよう
なソフトウエアの開発が必要である。

 仮に、以上に述べたような問題点がすべて解決され、干
陸地に洪水を導水して、遊水池として利用するとすれば、
背後地の湛水状況は表ー18のとおりとなり、導水しない
場合(表ー17)に比較して湛水被害は軽減されることになる。
表ー18 背後地の湛水状況(干陸地へ導水する場合)
区分\事項外潮位湛水面積最大
湛水位
最大
湛水深
最大
湛水時間
家屋備考
床下浸水床上浸水
計画
(干陸地へ
導入する
場合)
EL(+)4.9m2,290haEL(+)2.79m2.49m27hr190戸90戸***
EL(+)3.5m2,270haEL(+)2.74m2.44m27hr180戸70戸
EL(+)3.0m2,260haEL(+)2.72m2.42m27hr180戸70戸

 しかし、干陸地への導入により干陸地内の湛水状況は当
然のことながら悪化することになる。

(4)背後地での排水改良の可能性
 干陸地を遊水池として利用することが可能であったとし
ても、計画後における背後地の湛水被害は解消しない。い
ま仮に床上浸水90戸を床下浸水まで改良する対策を立て
たとしても、調整池には既に余裕がないため、干陸地へ導
水せざるを得ない。しかし干陸地には既に河川の洪水が導入さ

           ー43ー

-----------------------------------------------

れているため、干陸地の湛水位が高く背後地から干陸地
への排水路による自然流下方式は不可能であり、前例の
ないほど巨大なポンプによる強制排水でしか対応できな
いこととなる。

(5)調整池の堆砂
 調整池の堆砂による埋没年数を算定すると、表ー19
のとおりとなり、調整池の寿命が短い。
表ー19 堆砂による埋没年数
堆砂標高堆砂標高
以下の容量
年平均
流出土砂量
埋没年数備考
EL(-)1.0m11,000千m^346千m^3240年*
EL(-)2.0m4,000千m^346千m^390年*

(6)外縁地域における国土保全対策
 潮受堤防の外側となる海岸堤防及び河川は改修整備が
必要と見込まれ、その延長は表ー20のとおりである。

表ー20 堤防等の改修延長
区分堆砂標高(1)総延長(2)要改修延長(2)/(1)備考
海岸堤防44.5km16.5km37.1%*
河川22.3km3.3km14.8%*
(注)1.「総延長」の欄は、南総計画の締切内にある延長である。
   2.「要改修延長」の欄は、締切りの外側となるため別途事業により改修
    整備が必要となる海岸堤防及び河川の延長である。

             ー44ー

-----------------------------------------------

4ー2ー2ー2 3、900ha案について
(1) 本明川河口水位及び調整池水位
 背後地の土地利用の変化はなく、治水諸施設もまた現
況のままであることを前提として流出解析、不定流解析
を行った結果、表ー21に示すように、調整池水位は
EL(+)3.26mとなり、一部海岸堤防等の嵩上げを行わ
ざるを得ないが、河川管理上制約条件となる本明川の河
口水位は制限水位以下に収まる。

表ー21 本明川河口及び調整池最高水位
外潮位\内水位本明川河口
最高水位
調整池
最高水位
備考
EL(+)4.90mEL(+)3.35mEL(+)3.26m*
(2)背後地の湛水状況
 背後地の排水施設は現状のまま変わらないとしたとき
の計画後の湛水状況は表ー22のとおり、現況に比較し
かなり改善される。

表ー22 背後地の湛水状況
区分\事項外潮位湛水面積最大
湛水位
最大
湛水深
最大
湛水時間
家屋備考
床下浸水床上浸水
現況EL(+)4.9m3,210haEL(+)4.89m5.39m......hr1,360戸3,010戸***
計画EL(+)4.9m2,300haEL(+)2.83m2.53m28hr180戸90戸***
(注)1.現況の湛水状況は、外潮位EL(+)4.9mが生起すれば既設の海岸及び河川
堤防が決壊し、背後低平地は全面的に湛水するものとして算出した。
   2.計画後の湛水状況は、本明川河口の最高水位が制限水位(EL(+)3.5m)
を越えないため、既設堤防の決壊は起こらないものとして算出した。
(提供者注:上記の注はp34の注の再掲です。)

                      ー45ー

-----------------------------------------------

(3)背後地での排水改良の可能性
 計画後の背後地での湛水状況をみると、床上浸水90戸
であるが、これを床下浸水の水位まで低下させる対策を
講じるとすると、既に調整池に余裕がないことから、や
むを得ず、干陸地へ導水せざるを得ない。
 この場合、干陸地での最高水位はEL(ー)0.3mと低いた
め、背後地から干陸地へ排水路による自然流下が可能で
ある。

(4)調整池の堆砂
 調整池の堆砂による埋没年数を算定すると表ー23の
とおりとなる。

表ー23 堆砂による埋没年数
堆砂標高堆砂標高
以下の容量
年平均
流出土砂量
埋没年数備考
EL(-)1.0m23,000千m^347千m^3490年*
EL(-)2.0m10,000千m^347千m^3210年*
(5)外縁地域における国土保全対策
 防潮堤防の外側となる海岸堤防及び河川は、改修整備
が必要と見込まれ、その延長は表ー24のとおりであ
る。

         ー46ー

-----------------------------------------------
表ー24 堤防等の改修延長
区分\事項(1)総延長(2)要改修延長(2)/(1)備考
海岸堤防44.5km14.6km32.8%*
河川22.3km3.1km13.9%*
(注)1.「総延長」の欄は、南総計画の締切内にある延長である。
   2.「要改修延長」の欄は、締切りの外側となるため別途事業により改修
    整備が必要となる海岸堤防及び河川の延長である。

         ー47ー

-----------------------------------------------
表ー25 計画諸元
項目\縮小案4,600ha案3,300ha案3,900ha案備考
1.流域面積 266km2242km2253km2*
2.締切面積 4,600ha3,300ha3,900ha*
3.調整池面積2,200ha1,200ha1,800ha*
 1)調整池 1,800ha940ha1,540ha*
 2)承水路 400ha260ha260ha*
4.干陸面積 2,400ha2,100ha2,100ha*
 1)農用地 1,800ha1,560ha1,560ha*
 2)堤防敷 400ha360ha360ha*
 3)施設用地200ha180ha180ha*
5.堤防延長 28.6km27.8km27.4km*
 1)潮受堤防7.3km7.2km6.8km*
 2)内部堤防21.3km20.6km20.6km*
6.締切内の要改修延長
 1)海岸堤防2.5km3.7km3.7km*
 2)河川  3.2km4.3km4.4km*
7.外縁地域の要改修延長
 1)海岸堤防11.7km16.5km14.6km*
 2)河川  2.9km3.3km3.1km*

        ー48ー

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 図ー9 比較検討案平面図

(p13,14の図ー3に各案の堤防線を書き入れた地図です。
外から次の順番です。
(1)6,000ha締切線
(2)4,600ha締切線
(3)3,900ha締切線
(4)6,000ha内堤線、3,300ha締切線
(5)4,600ha内堤線
(6)3,300ha,3,900ha内堤線
この図のコピーに現行の締切線・内堤線を書き込んだ「長崎の自然と
文化」第36号の図を拝借--->図ー9’280KB)

                    ー49〜50ー

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5. むすび

5ー1 縮小案の防災効果
 諌早湾地域において、国土保全を目的とした複式干拓を実
施する場合、その締切規模は大きいほど防災上有利である。
一方、漁業者の意向を踏まえた水産資源を極力保全する立場か
らは、その規模を縮小することが望まれている。
 本委員会では、これらの相反する状況を如何に調和させ、
規模をどの程度まで圧縮できるかを最大の課題とした。既に
述べたように防災的観点から理想と目される6、000haの締切
規模を基本案とし、これを縮小する方向で4、600ha、3、300ha、
及び3、900haの各案について検討を行ってきたが、ここにこれら
の各案について技術的評価をまとめると以下のとおりである。
 まず、4、600ha案については、想定した高潮及び洪水に対
し十分対応できると同時に、その調整池は、背後地での湛水
防除など今後の積極的な排水改良対策に伴う洪水量の増加に
も対処しうる可能性を持ち、堆砂に対する安全性も十分な案
であると言えよう。
 次ぎに、社会的諸情勢を考慮してこれを大幅に圧縮した3、000
ha台の案について以下に述べる。
 まず、3、300ha案については、計画洪水に対して調整池だ
けでは対応できなくなるため干陸地を遊水池として利用せざ
るを得なくなる。しかし、その導水に当たっては、構造、水
理、管理等の面から技術的に極めて困難な問題が残されてい
る。またこの場合、潮受堤防がEL(ー)3.0m程度の浅い海

         ー51ー

-----------------------------------------------

域に築造することとなるため、基礎処理の施工性も極めて悪
く、これを克服するには事業費の大幅な増嵩は避けられない
であろう。更に将来背後地の排水改良の余地がほとんどなく、
堆砂による調整池の寿命も短くなることから国土保全上か
らの問題が多いといえよう。
 次に、3、900ha案については、計画洪水に対し干陸地に導
水することなく、本明川河口水位を河川管理上の制限水位内
に収めることができる。この場合の調整池水位は、大潮平均
満潮位より高くなるものの平均年最高潮位より低いことから、
締切りによる効果は十分大きいといえる。しかし一方におい
て、将来の背後地での排水改良の可能性については、計画洪
水に対して調整池の水位が高いため、ここに直接排水するこ
とができないが後背地から干陸地に導水することを許容する
ならば、一応改良の余地が残されているとみることができる。
すなわち安全性に対する余裕は少ないものの許容しうる案と
考えられる。
 以上、締切規模の縮小案として、4、600ha、3、300ha、及び
3、900haの3案について検討したが、締切規模の決定に当た
っては、単に計画条件に対する技術的な評価のみではなく、
広範な防災効果、経済性等についても十分に考慮した上で、
地域住民、湾内漁業者、更には湾外漁業者等との合意が得ら
れるような格別の配慮が必要であろう。
 しかしながら、これらの点については社会的諸情勢を踏ま
えた総合的な判断が必要であり、今後の行政側の対応に委ね
ることとしたいが、その際には、次の5ー2において述べる

        ー52ー

-----------------------------------------------


事項についても十分に検討する必要がある。

5ー2 今後の技術的検討事項
 前述のように、本委員会では、これまで軟弱地盤上におけ
る築堤に技術的可能性及び水文水理からみた締切規模の検討
を行ってきたが、事業実施に当たっては、今後更に次の事項
について調査検討が必要である。
(1)堤防等主要構造物の基礎土質等に関する調査
 3ー2で述べたように軟弱地盤上での築堤には基礎処理
が前提となるが、設計上の重要な要素となる基礎土質につ
いて、堤防位置での詳細なボーリング調査及び土質試験等
が必要である。また、堤体及び基礎処理用砂材の採取場
所の調査及び砂材の資材としての適応性について更に詳
細な調査を行う必要がある。
(2)堤防等の基礎処理工法の施工性の検討
 基礎処理工は海上作業となることから、波浪や潮流更に
は潮汐による水深の日変化によって作業時間、施工方法等
に制約を受ける。これらの具体的な施工方法及び施工精度
の確認方法については、試験施工等により更に十分な検討
が必要である。
(3)環境影響評価調査(環境アセスメント)
 環境影響評価は、南総計画時に報告書が作成されている
が、締切位置の大幅な変更に伴い前調査時点と影響度合が
異なる事項については再度影響評価を行う必要がある。

       ー53ー

-----------------------------------------------


(4)事業効果からみた本事業の妥当性の検証
 今回の検討は主として技術的な観点から行った。今後
更に経済的な観点から本事業の妥当性について総合的な
検討が必要である。
 またその場合、干陸された土地の長期的な利用計画及
び調整池の水利用の可能性についても検討されなければ
ならない。
(5)調整池の管理システムの確立
 調整池の機能を十分に発揮させ、かつ堤防決壊等の危
険を防止するため、洪水及び高潮の発生予測システム、
常時と異常時における排水門操作システム、調整池等の
機能維持方策、将来の土地利用の変化に伴う超過洪水に
対する被害の形態の想定とそれに基づく水防計画等を考
慮した総合的な管理システムを確立する必要がある。

           ー54ー

-----------------------------------------------
付 
    「諌早湾防災対策検討委員会設置要領」

1. 主旨
 諌早湾における急速な干潟の発達に加え、57年に発生した
長崎大水害等諌早湾沿岸地域における災害の発生からみて、防
災の視点を重視して緊急に対策を講じる必要がある。そのた
め、地域の実態に即した複式干拓方式による防災対策を講ずる
に当たって必要な技術的検討を加えるために、諌早湾防災対策検討
委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
2. 検討事項
 委員会で検討する主な事項は次のとおりとする。
(1)防災に係わる計画諸元の設定及び計画洪水量の決定
(2)調整池規模の検討
(3)水位、水質等の管理からみた調整池の構造の検討
(4)軟弱地盤上における築堤技術の検討
(5)外縁地域の国土保全対策の検討
(6)防災効果の検討
3. 構成
 委員会は、別表に掲げる者をもって構成する。
4.委員長
(1)委員会に委員長をおき、委員の互選によってこれを定める。
(2)委員長は、会議の議長となり議事を整理する。
(3)委員長に事故のあるときは、予め委員長が指名する委員が
その職務を代理する。

       ー55ー

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5. 事務局
 委員会事務局は、(財)九州経済調査協会とする。
6. その他
 この要領に定めるもののほか、委員会の運営等に関し、必要
な事項は委員長が委員会に諮って定める。

(別表)
   諌早湾防災対策検討委員会委員名簿

 氏名/所属/備考
井島武士/九州大学工学部教授/*
角屋睦味/京都大学防災研究所教授/委員長
河野善隆/長崎県国際経済大学教授/*
田中宏平/九州大学農学部教授/*
戸原義男/佐賀大学農学部教授/*
中原通夫/農業土木試験場水工部長/*
難波直彦/鹿児島大学農学部教授/*
福地辰馬/(財)漁港漁村建設技術研究所顧問/*
村本嘉雄/京都大学防災研究所教授/*
元田雄四郎/九州大学農学部助教授/*
吉田達男/地域振興整備公団顧問/副委員長
             (50音順敬称略)

        ー56(注:最終ページ)ー
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(1997年8月20日、農水省構造改善局から送付を受けたコピー
によります。--のんき)

 のんきの評:
 この報告書は次のような経緯・問題点があります。

(1)佐賀県漁連など諌早湾外の有明海漁業者の反対によって「南総」計画が中止に追い込まれ、あらたに防災を理由に新事業が計画された。そこで、湾外漁業者の3,000haへの縮小要求に応えて締め切り規模縮小を防災の観点から検討したのが本報告書です。  4,600ha,3,300ha,3,900haの3つの縮小案を順に検討し、4,600は安全だが3,300は危険、3,900は安全性に余裕がないが許容しうる(p52)、として3,900ha案を事実上答申。実際の採用は3,550haですが、干拓面積を縮小し調整池容量には同程度を確保したので3,900ha案の防災評価が採用されています。

(2)死者多数を出した諌早大水害の再発生を防ぐ事業だとは、一言も書いていないし検討も行われていない。大雨時に、調整池水位が上昇して堤防決壊を招かないようにと、安全な規模を検討したものです。

(3)高潮4.9mと諌早大水害雨量380(mm/6時間)が同時に発生し、これによって海岸・河川堤防が全面的に決壊したと仮定したときの湾岸地域の浸水状況(p34)を想定し、それを防ぐ効果があるとして計算が行われている。

(4)想定された高潮4.9mは、大潮平均満潮位2.55mに、伊勢湾台風級の台風を想定したときの高潮2.34mを加算した合計値です。過去最高潮位で設計された海岸堤防が、伊勢湾台風でことごとく決壊した過去の教訓から、その後の海岸堤防の設計でこの方式が採用されていると、土木関係の事典に書かれています。

(5)諌早大水害時雨量は、過去最大雨量に相当します。しかし、本明川の様な一級河川ダムの設計には200年に一度の確率で起こると予測される雨量が採用されています。中間報告書が示す200年に一度の雨量データは、479(mm/6時間)(p6)です。380の約1.26倍です。素人の単純比例計算で最高水位に反映させると、河口4.2m、池4.11mとなり、河口制限水位を3.5mを軽く超過します。八郎潟干拓堤防は1000年に一度の雨量で計算されていると聞きます。その雨量578では調整池水位はどうなるのでしょう? 農水省に質問しても答えてくれない。調整池は河口に作られたダムです。しかも周囲を堤防で囲まれたダムです。堤防決壊に関してはダムの基準が採用されると思う素人の私の不安は杞憂なんでしょうか?

(6)3,300案の検討の中で(p39表-15)、想定外潮位3.5m,3.0mで、河口・池水位が想定外潮位より高くなっている。これは大雨ではなく調整池の存在が堤防決壊を招くと読める。この場合では調整池がなければ堤防決壊は起きない。

(7)「本地域の場合、河川上流において洪水量を十分に貯留できるような防災ダムを築造することが、地形的、地質的制約から困難とみられている。」(p3)として防災ダムの代替施設として調整池による防災が有効とされているのだが、本明川ダムがすでに計画されていることは、締切時点で分かっていた。だから調整池による洪水防災事業実施の根拠を中間報告書に求めてもそこにはない。なのに「ダム築造が困難だから」という前提を省いてこの文章の結論「総合的な防災対策を講じる上で最も有効」だけを堂々と引用しているのが長崎県のホームページです。

(8)3,900ha案は、洪水流量の増加に対処できないと中間報告書に記載されています。河川流量の増加や調整池へのポンプによる排水等によって、洪水流量が増加した場合、これに対処しうる余裕がない。そこで、「後背地から干陸地に導水することを許容するならば」許容できる案だとしています。(p52)しかし政府は干陸地への導水の予定はないと昨年答弁しています。許容できない案を実施したことになる。
 「干陸地導水」が「安全性が少ないが許容できる案」の前提なのですが、農水省はこの前提を省いて中間報告書を引用するという詐欺まがいのことをホームページで行っています。先の長崎県HPといい農水省HPといいどうなっているんでしょうか?

(9)自然排水効果については、4,600案も3,900案も全く同じ結果になっています。容量が増えても効果が頭打ちになるようです。(p34表-11,p45表-22)

(98/3/18記)